APPROACH
BMIで豊かさに
あふれる日常へ
BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)とは、脳神経系の活動と機械装置の動作を実時間的に対応づけ、1つのシステムとして機能するようにした計算機構のことです。脳波などの情報を利用して脳と機械を接続し、身体運動を補助します。ここ十数年、神経科学や情報科学、工学技術の進歩によって急激に発達し、医療や福祉、介護などの分野で注目されています。
私たちの研究室では、BMI技術の基礎研究から応用研究、医療機器開発まで、一気通貫で取り組んでいます。
脳科学 × AI
私たちは脳科学とAI(人工知能)を融合させたBMI研究を通じて、「人の豊かさ」を探究しています。
脳は、神経回路を書き換えるやわらかさを備えています。そしてBMIは今や、脳を外部の機械とつないで脳のやわらかさを引き出す、脳科学の新たなツールとなっています。それを支えているのがAIの技術です。AIは脳波の信号を判定し、脳の回路が効率よく書き換わるようにBMIを動作させるためには欠かせません。このように、BMI研究では、脳科学とAIの両者をそれぞれ高度に追求し、両者をバランスさせてベストミックスさせることが必要です。
私たちが考えるBMI研究は、人間を機械のように見立て、足りない機能を追加していくような「サイボーグ的なBMI」とは一線を画しています。脳卒中の麻痺患者さんにとっての「豊かさ」とは、苦しみが少しでも和らぎ、日常のささやかな営みを人として取り戻すことです。BMIを通じてそのことを実現したい。BMIは、人が人らしく生きられるようにするための、「人に寄り添うテクノロジー」だと、私たちは信じています。
研究×成果活用
BMI技術によって脳卒中による麻痺が改善するのは、脳がやわらかく変化する「脳の可塑性」という性質に起因します。生物学的な臓器である脳が、どのような条件でどのように可塑性を発揮するのか、その原理を解明するべく、基礎研究に取り組んでいます。
そのうえで、脳の可塑性を引き出すために、AIやエンジニアリングを駆使して技術開発(応用研究)も行なっています。たとえば、容易に着脱可能な脳活動モニタリング装置やロボットアームなどを開発し、BMI技術を少しでも身近に活用できるようにしています。
さらに、研究室から生まれた成果を活用する「研究成果活用企業」として、Connect株式会社を立ち上げ、BMI技術によって脳卒中の麻痺を治療する医療機器も開発しています。
このように、私たちの研究室では、基礎研究から応用研究、医療機器開発までを一気通貫で取り組んでいます。そこには、私たちの研究成果を製品に結実させたいという思いと、技術開発や医療機器開発のフェーズで生まれる基礎研究の種を、研究室にフィードバックさせたいという思いがあります。
サイエンス×アート
研究者の重要な仕事は、研究成果を論文という形で結晶化し、アカデミックな知を創出することです。そのために私たちは基礎研究や技術開発に取り組み、データを事実として積み上げていきます。
ただし、論文には書けないものもあります。私たちの場合は、脳卒中の麻痺患者さんと接して感じた、人としての思いや心の動きです。それを社会に届けるために、TEDxやトークライブなどに出演し、思いを語る活動を続けています。
サイエンスとアートは、本質的に似た活動だと思っています。アートは人が手を動かすことにより、今までにない視点やアプローチを見せる活動ですが、サイエンスも物理世界における理を人の手で切り出して、新たな端面を見せる活動です。新しい視点や端面を見せるという目的は共通しています。サイエンスの論文からこぼれ落ちてしまう人間的な手触りを伝え、見る人に新たな視点を提供するために、トークライブやインスタレーションにも取り組んでいるのです。